日輪の龍 ~異聞、龍造寺隆信伝~ 7話 あいつらが死んだら、俺たちで貰おう

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「水ケ江城跡」龍造寺隆信生誕の地、九州唯一の下克上による戦国大名

槍を持った二人が対峙する、踏み込み、相手の胴を突き……たい。互いの願望。

ガキッ

相手を突きたい、しかし自分は突かれたくない。攻撃しながらの防御、中途半端に突きと払いが混ざったような動き。互いの槍と槍が交錯し、お互い前に出たため間合いが詰まる。槍を手放し、組み合う。

首投げ

首に腕を巻くように組みつかれ、払い腰にそのまま半回転で投げ打たれる。

ふわっ

投げられたトラはそのまま抗わず、中に浮いたまま右手で腰の鎧通しを抜く。投げ倒されるままに任せ、鎧通しの短刀を突き立てる。上から覆いかぶさるように、体をあずけてきた敵。ズブリ、腹に刺さる。体が硬直する。抜いてもう一度、ズブリ。

温かい液体が籠手に沁み込んできた、敵は失血、痙攣。急所を抉(えぐ)ったらしい、ビクンと跳ねて息絶えた。

「トラ、大丈夫か」

長太が駆け寄り、男の背に槍を生やす。半次郎はすぐ横で次の敵、突き出された槍をいなしている。

上にのしかかっていた男を足で蹴り除け、血にまみれた右手を地面にこすりつける。近くにあった槍を掴み、横に転がって立つ。鎧通しを放り投げ、すぐさま掴んだ槍を構えて駆けだして、目の先には半次郎と向き合う小田兵。その横から体を乗せて突き刺す。

ぐわっ

驚いたような目、振り向いた敵と目が合う。怯えたような表情となり、目から色が、光が消えてゆく。

ドサリ

「はあ、はあ、はあ、みな怪我はないか。ひとまず寺の壁まで下がれ、敵が多すぎる」

「ああ、おまえこそ、大丈夫かトラ」

寺の壁伝いに門を潜り、門脇の壁に三人でもたれかかる。寺内での戦いは終わっているようだ、戦場は少し先へと動いている。

鎧通しを失った、目の前に味方兵の死体。御免、と声をかけ脇差を頂戴する。混戦だ、組打ちもある。接近戦で短刀は重要な武器だ。

堀となっていた水路を渡り、土居を越えて大きな屋敷横に出た三人。さらに進んで寺の前を駆け抜け、土橋を渡り、味方が打ち破った門を抜けた先。少し開けた庭とも回廊ともつかない場所、そこで猛烈な敵の反撃を受けた。恐らく、この広場を抜ければ主郭があるのだろう。

「半次郎」

半次郎は息絶え絶え、呼吸を整えながら右手を上げる。五体満足、大丈夫そうだ。

「しかし驚いたな、門をくぐった瞬間、死地だぜこりゃ」

「ああ、小田は小勢、全ては守り切れん。ここに兵を集めて待ち構えていたのだろう」

しかしもはやこれまで、其処此処から城に取り付いた龍造寺兵が土居を越え、壁を乗り越え、四方から小田勢に討ちかかる。多勢に無勢、ようやく攻め手の人数が揃い始めた。だからこそ、三人でひと息つく暇が出来たのだが。

「長太。何人、討った」

「今んとこ9人ってとこだな、散らした者を入れればもうあと4人。餓鬼の活躍としちゃ上々じゃねえか」

「兜首は」

「ほれ、あそこに偉そうなのが居るぞ。討つか、トラ」

長太が指さした先、味方の兵が二人がかり。陣羽織に前立て兜の侍と争っていた。

「味方が付いてるな、加勢したほうが良さそうか」

そう言ってトラを見上げる半次郎。

「いや、ありゃ負けるな。あいつらが死んだら、俺たちで貰おう」

トラは、味方の兵が負けると読んだ。

「今なら俺たちがヤッちまってもばれないんじゃねえか」

半次郎。やるってお前、横槍だぞ。それとも、味方もろともか。

「待つのも面倒だ、あの偉そうな侍と必死でやりあってる奴を後ろからさ、俺と長太が突けばいい。敵の偉そうな侍はトラ、頭に任せる。同時にやっちまえばバレねえって」

「いや、どこに目があるかしれねえ。兵の中で俺たちは余所者だ、見られたら同じように討たれるかもしれん。乗れねえな、その話は。半次郎」

そんな会話をしているうちに、味方の兵がいよいよ追い詰められた。敵の侍が一人の槍に自分の槍を叩きつけ、左の持ち手を強かに打った。討たれた味方の一人は、左手の指が折れたのか槍を持てなくなったようだ。残った右手で刀を抜こうとし、顔を柄で叩かれ、そして喉を突かれた。

「頃合いだ、囲むぞ。長太、まわりに注意しろ」

一人が倒され、それを見たもう一人が雄たけびをあげて、突っかかり、そのまま胸を突かれ倒れた。

「戦場で熱くなったら負けだ」

自分に言い聞かせるように、トラが呟いた。そして二人の見方を討ち倒した侍に勝負を挑む。

「名のある侍と見た、その首、もらい受ける」

「おう」

半次郎の売り口上に応える敵の侍、半次郎に向き直った瞬間に長太が槍を投げつけた。それを払おうとしたところを、トラに突かれる。

「お、おのれ卑怯な」

「卑怯もくそもあるか、生き残った者の勝ちだ」

「よっしゃー、兜首ひとーつ」

そう言いながらとどめの一突きを放ち、そのまま脇差で首を落とす半次郎。

「やったな、半次郎」

「ああ、トラ。誰かわかんないけど、偉そうなの獲ったぜ」

一瞬の出来事、首を落として周りを見るといつの間にか周りの喧騒は遠ざかり、いよいよ合戦は最終局面、主郭での戦いへと移っていた。よし、次へ行くか。トラはそう言うと、近くに落ちていた敵の旗をひっぺがし、首を包んで長太へ襷がけにした。

「長太、預けた」

そう言うと未だ戦いが続く主郭、本丸がある中館へと討ち入った。

敵兵による抵抗は散発てきになり、もはや組織だった戦闘は行われていない。守備していた小田兵にしても自らの城ではなく、他者の城の警備を請け負っていただけ。

そもそも一所懸命に命を懸けて守る必要のない城なのだ、敵が多勢とみるや士気は下がり、本丸まで侵入を許したところで完全に崩壊、兵の逃走が始まっていた。

「ははは、トラ、取り放題だぜ。館に踏み込むか」

半次郎が期待に満ちた目でトラを見つめる、館内の略奪に向かいたいようだ。

「ばか、ここは殿様が使う城だぞ。勝手に踏み込んで乱取りなどしてみろ、それこそ首が飛ぶかもしれん」

「その通りだ、とりあえず俺と半次郎が見張りにつく。長太、そこらの死体をあされ」

もはやここは戦場ではない、勝者による狩場と化していた。各所から土居を越え、筏で乗り付け、龍造寺軍が場内を蹂躙していく。小田勢はただ逃げ惑うのみ。中には踏みとどまり応戦する猛者もいるが、勝ちに乗った雑兵はそれらをたちまち取り囲み、なぶり殺し、全てを奪い去り、残されるのは裸の死体のみ。

「おお、坊主ら無事か。ん、なんだ手柄首か」

同じ備えにいた石井党の武者が、半次郎が襷にかけた旗に包まれた首を見て声を掛けてきた。

「ああ、俺たち三人で獲ったんだ」

「たいしたもんだ」

言いながら近づいてい来る武者、その姿に隙はなく、右手に持つ槍を握る手には力が込められている。

「この首はやらねえぞ……」

トラはすっと腰を落とし相手の眉間に穂先を向ける、右手突き手と左の添え手を内に絞り込むように槍を構え左足をジリと前へ擦りだす。一足に突き込める姿勢だ。

「ふっ、やめとこう。ただの餓鬼なら叩き伏せて分捕るつもりだったが、返り討ちに合いそうだ」

味方と言え油断できない、弱い者は奪われる。それが戦国の習い、故に同じ出身地や集落の者で集まって自衛しているのだ。

それでいい、油断するな。と言いながら武者は緊張を解き去って行った。

そんなこともありながら、死体から目ぼしい物を集めていくトラたち。城内に討ち入ってからどれほどの刻が経ったのか、ようやく戦いも終わりを迎え散発的に聞こえていた争いの喧騒も晴れた。

辺りにでがやがやと死体をあさっていた雑兵たちも、あらかた取り尽くしたのか静かになった。そこへ大将の馬印とともに偉そうな鎧武者がやって来た。一人の小柄な鎧武者が前に出て、そして告げる。

「小田は退き、城の奪還はなった。みな、大儀であった」

「「おおおーーー」」

老人だ、それも長老と言ってもいいくらいの老人、あれほどの年よりは街で見かける事も少ない。その老人が鎧を着込み、歳に似合わぬ張りのある声で勝利を告げ、皆が勝鬨をあげた。

「半次郎、長太、終わったな」

「ああ、勝った。長太、獲物はどうだ」

「佐賀の街へ出てきたからだろうな、けっこう持ってやがった。ほれ」

ずしっと重そうな袋を掲げて笑う長太。戦というよりも接収した城を監視する役割だったためか、多くの敵兵が佐賀で使うための銭を持っていた。その結果がこれだ。

「武具はさすがに多すぎて討ち捨てだな、まあ、他の連中がどうにかするだろう」

「おう、坊主ども。首を獲ったらしいな、陣奉行が乾亨院に居るから持っていけ。この館のすぐ横だ、ほれ、あそこに陣幕が見えるだろ」

備えの大将であった石井兼清が嬉しそうな顔で近づいてきて、一人ずつ頭をなでる。

「はい、石井様、ありがとうございます」

トラはそう答えると、半次郎と長太を連れ陣奉行がいる乾亨院にむけて駆けだした。

門をくぐると右手に陣幕があり、中には四人の武者が立ち、記録係と思しき奥に座る武者が二人、計六人が詰めていた。四人の武者が立つ前には長い机が置かれ、机の上には首実検役と書かれた木板が立てられている。

「あの、お侍様、これを」

トラは一人の武者に声をかけ、兜を被ったまま旗に包んだ首を机の上に置く。ゴツッという音がした。

受付に立つ武者はその首を一瞥し、記録係がこちらを向く。

「名は」

「俺はトラ、こっちが長太、そしてこいつが半次郎。宝琳院の円月様の小者で、三人で討ちました」

「なるほど、どこでだ」

「本丸の手前にあった広い郭にて」

「ふむ」

首実検役の武者はそういうと首の包みをほどき、さらに兜を外し、まずは兜を調べ始める。

「なかなかに良い兜だ、それなりの身分の者じゃな。しばし待つがよい」

そういうと首を持ち寺の方へと歩いて行く、本堂の前にはもう一つ陣幕が張られており、その中へと入っていった。おそらくそこで首実検が行われているのだろう。

そうしてる間にも一人、また一人と首を持ち込む者が現れる。様々な表情で討たれた首、見ているのも面白いのだが、あまり気味のいい物でもない。そうやってしばらく他の者が持ち込む首を見ていると、本殿前に張られた陣幕から一人の武者が駆けてきた。

「トラ、長太、半次郎、これへ」

「は、はい」

「あの首はな、小曲小田の家老江口入道の次男、江口某であった。大手柄じゃ」

それを聞いて記録係が一瞬目を見開きトラ達三人を見て、そのまま記録を付け始めた。

「おお、すげえじゃねえか坊主ども」

それを聞いた周りの雑兵足軽たちもざわつき始めた、こいつはけっこうな手柄首らしい。

「やったなトラ、長太」

「ああ、これで侍になれるかもしれんぞ」

「褒美がたのしみだな、トラ」

思わぬ大物の首を獲っていたことを素直に喜ぶ三人。

「恩賞はおって沙汰があるだろう。とりあえず今日は飯でも食って休め」

そう言われたトラ達一党、勝利の祝いに振舞われるのは味噌を塗った玄米の握り飯、それと味噌汁だ。この時代、庶民の食事は主に雑穀の雑炊、副菜に野菜が少しなんてのが当たり前。

合戦になぜ人が集まるのかというと、味噌などの調味料を使った豪華な食事にありつけるというのも大きな理由であった。豪華な飯、そして乱取りという略奪による副収入、さらには戦場の死体から奪う銭。この時代の合戦は、領民を食べさせるための公共事業的な側面も持っていたのである。

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